夏が着実に近付いてるのを感じる。まだ涼しい時間に外に出たのに、まとわりつく空気や漂う雨のにおいが重たくて、煙たい。風がうるさくて嵐の音がする。もう既に冬の空気が恋しい。
読んでいた本で片想いを拗らせた主人公が、その相手とどうなりたいのか、今後どうしたいのかを問われた時、「楽になりたくない」と言ったのを見て、俺もそうなのかもしれないと思った。失恋してしまったその子は、その恋を諦めることだって出来るし、目の前にいる別の人を好きになることだって出来る。幼馴染として、友人として一番にしてくれる彼女とそのままの関係でいることだって出来る。それでも愛おしいって感情が捨てられなくて、楽になる方法を選びたくないと思っている。その気持ちが痛いほど分かって、読んでから暫くは苦しかった。
星の数ほど人がいて、知らない人と出会うこともさほど難しくないこの世界で、愛おしいと思える人が出来るのはとても恵まれていると思う。巡り合わせに感謝するほど、深く深く愛するほど、手放すのが惜しくなるのは当然だ。でも手放した方が楽になることだって多いし、もっと愛せる人がいるかもしれない。人間って思っているよりも頑丈で薄情で、誰かがいないと生きていけないなんてことはなくて。それがどうしようもなく悲しくなる瞬間がある。きっと俺が彼の手を離したところで俺の世界も彼の世界も変わらずに回り続けるんだろう。それを確認するのが怖いと思う。彼のいない世界を歩けてしまうかもしれない自分が、嫌いだと思う。
そんなことを考えていたら蘭たん達に恋愛観について語ろうなんと言われて参ってしまった。俺たちはその辺の感覚が全くと言っていいほど合わない。お互いの価値観を尊重しつつも、本当の意味で理解し合うことはできない。俺は時々、すぎるさんの真っ直ぐな恋愛観が羨ましくて、同時に少し疎ましくなる。自分の欠陥を掘り返されているような気になるから。